ブラフマー神と<ココナッツ>と<ケータキーの花>4/5

さて、なぜインドにはブラフマー神の寺院がないのでしょうか?

◆シヴァ神を信仰する宗派による、宇宙創成神話  
『宇宙のはじまりのとき‥‥‥ 無限の海、 一切の可能性の種子はまどろみの状態にありました。 ヴィシュヌ神は、原初の海の上に横たわっています。 そこにブラフマー神が現われ、宣言しました。「わたしは宇宙の創造主、生類の最初の先祖である」 これを聞いてヴィシュヌ神は反駁しました。 「わたしこそが宇宙の創造者であり破壊者である」 時間のない空間のなか、二神の間に論争が起きました。  

ついには、三界を焼き尽くすくほどの激しい戦いが繰り広げられたそのとき、 炎を冠にした巨大なリンガム(炎の柱)が、忽然と姿を現しました。 無限の空間へと伸びてゆくリンガムは、その高さも深さも測ることはできません。

二神は、リンガムの果てを見極めてきた方がより偉大である、と認めようと約束し、 ブラフマー神は白鳥に姿を変え、天に飛翔し、 ヴィシュヌ神は猪に姿を変え、深みに飛び込みました。 ヴィシュヌ神は地下界、地獄界をつき破って進んでいきました、 が、もちろん、シヴァ神の限界を見ることなどできようはずもなく、 疲れ果てて、戦いの場に戻り、自らの非力を素直に認めました。 一方、天界を進んでいったブラフマー神も上端を見ることはできませんでしたが、 二神の争いを見て大笑いしたシヴァ神から舞い降りてきた 髪飾りのケータキーを取って戦いの場に戻り、誇らしげに言いました。 「われは柱の頂点からケータキーを持ち帰った」< ケータキーの花>を証人として上端を見たと嘘を言い、 ヴィシュヌ神を平伏させてしまいました。  

するとついに巨大なリンガの側面が裂け、宇宙の至高の力であるシヴァ神が現われました。ヴィシュヌ神とブラフマー神は、恐れてシヴァ神に敬礼すると、シヴァ神は宣言しました。 「わたしこそがブラフマーとヴィシュヌの起源である」 「ヴィシュヌよ、真実を述べた汝は、人々の間でわたしと同じ地位と敬意を受けるだろう。 汝自身の寺院と彫像、そして祭祀と礼拝を得るだろう」 そして、嘘を言ったブラフマー神の5番目の首を切り落とし、さらに息の根をとめようとしました。 しかし、ヴィシュヌ神の懇願によって心をやわらげ、 「ブラフマー、おまえには、人々からの信仰も寺院も祭祀も与えない」と告げました。

死から免れたブラフマー神は嘘をついたことを悔い、 シヴァ神に讃歌を捧げて帰依し、祭祀を司る神としての地位をシヴァ神から賜与されました。

こうして最高神シヴァは、創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァを みずからのうちに包含するにいたりました。 虚偽の証言をした<ケータキーの花>は、「真実を申さぬ者よ、ここを去れ、もはやわたしへの礼拝におまえはいらない」 とシヴァ神から宣告されました。ケータキーが、それでは生まれてくる意味がなくなってしまいますと懇願すると、「ではわたしの眷属と信徒だけはおまえを身に着けることを認めよう」と妥協し、ケータキーを追放しました。 シヴァ神のこのお言葉を聞いた神々もまた、ケータキーの花を遠ざけました』  

これが、地上にブラフマー神の寺院はほとんどない理由、ケータキーの花が神々に捧げることが許されない”禁じた花”となった理由であると、神話は語ります。

◆そうしてシヴァ神は、自らの無限の光を人間にも礼拝できるようにと、 山に姿を変えました。 これが現在の、南インド・チェンナイから南西200km、ティル・ヴァンナマライの 聖アルナーチャラ山(地球のハート)といわれています。

聖アルナーチャラ山
聖アルナーチャラ山の中腹より

<続く>
ブラフマー神と<ココナッツ>と<ケータキーの花>5/5